SCI ハテナ?を探る サイエンスの旅

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海洋の酸素欠乏現象の
謎に迫る

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地球環境と生命の共進化 / 生命の星 / 進化と絶滅 / 海洋生態系 / 海中の酸素量 / 海洋無酸素事変(OAE: Oceanic Anoxic Event) / 地球温暖化・環境問題 / 過去を研究すると未来が見えてくる / 新しい考え方や研究手法を作り出す / 未来の地球環境を考える

新しい研究手法を作り出し
海洋環境と生命の共進化を探る

海中の酸素量は豊かな海洋生態系を維持するうえで欠かせない条件の一つです。地質記録に基づくと、その量は時代によって変化し、現在のように深海まで酸素に富むような海洋環境が実現したのはおよそ4.5億年前のことであったと考えられています。しかし、その後の時代においても常に海洋環境が酸素に富んでいたわけではありません。海洋無酸素事変(OAE)と呼ばれる、大規模な酸素欠乏現象が何度も発生したことがわかっています。OAEにおいては、数万年から数十万年間にわたって海洋中の酸素量が著しく減少し、海洋生物の顕著な絶滅が引き起こされました。これまでの地質学的・地球化学的研究の積み重ねによって、各OAEの時空間規模や生命への影響といった実態解明が進んできました。しかしながら、OAEがどのようなメカニズムで発生するのかについてはよく分かっていません。
私たちは、海洋内部で生じる種々の生物地球化学過程を包括的に考慮した海洋物質循環モデルを開発し、OAEがどのような条件で発生するのかを調べています。これにより、OAEの発生に寄与すると考えられる海洋循環や生物生産の影響を定量的に評価することができるようになりました。
また、地球温暖化とOAEの発生の因果関係を調べるために、海洋物質循環モデルと地球表層圏での炭素循環モデルを結合した数値モデルの開発を行っています。このモデルを使うことで、OAEが発生するための環境擾乱がどの程度のものであるのか、地質学的時間スケールで大気と海洋の生物地球化学的循環がどのように応答するのか、などの課題に対して地質記録との整合性を含めて研究を進めています。
これまでの海洋観測結果から、過去50年間で海洋中の酸素極小帯が拡大している可能性が指摘されており、さらに2100年までに海洋中の酸素量が数%低下すると予測されています。OAEは長期にわたる環境問題であり、発生原因と有効な対策の解明が、生命の星・地球を守るために急務な課題となっています。

なぜ地球は「生命の星」なのか?
この疑問の答えを共に探そう

研究室で扱うテーマは、OAEの研究を含む「地球の大気海洋組成の変遷史」のほか、「大量絶滅事変のメカニズム」、「万年~億年スケールでの地球環境将来予測」、「系外惑星のハビタビリティ」など、「地球システム科学」の分野です。地球表層環境が、現在に至るまでにどう変化してきたのか、それが生命の進化や絶滅とどう関係しているのかを明らかにし、そこで得られた知見を系外惑星へと応用することを目指しています。
本研究室では、惑星表面での物質・エネルギー循環についての数理モデリングを主たる研究手法としていますが、現在の観測データや地質記録も重視し、データベース構築やデータ解析から得られる知見を積極的に活用する姿勢も大事にしています。地球の進化を理解するためには、大気や海洋そして生命といった地球環境を構成する要素が相互に影響し合いながら一つの巨大なシステムを構成しているという視点が重要です。異なる専門性を持つ研究者との交流も重要な分野であるため、国内だけでなく海外の研究者とも緊密な連携を行っています。
「地球システム科学」はまだ発展途上の学問であり、それだけに新しい考え方や手法、発見があるとてもエキサイティングな分野です。ぜひ勇気と覚悟をもって大きな研究テーマに挑戦し、幅広い教養と高い専門性を身につけてほしいと思います。


尾﨑 和海講師

理学部生命圏環境科学科講師、地球惑星システム学研究室。東京都立大学 理学部物理学科卒、東京大学大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻 博士(理学)。2012年4月~2016年3月東京大学 大気海洋研究所 特任研究員、2016年4月~2018年3月ジョージア工科大学 NASAポスドクプログラム研究員を経て、2018年4月より現職。

研究内容

● 地球の大気海洋組成の変遷
● 海洋酸性化・貧酸素化の発生条件
● 大気中酸素濃度の変遷
● 原始微生物生態系と気候
● 大量絶滅事変の発生メカニズム
● 系外地球型惑星のハビタビリティ

卒業研究例

● 大気海洋物質循環モデルによる大酸化イベントに伴う環境動態の解明
● 硫黄代謝に注目した太古代の原始微生物生態系活動レベルの制約
● 海洋貧酸素化の長期予測に関する理論的研究
● 物質循環モデルによる過去2億年間の海洋中酸素濃度復元
● 人為活動起源の二酸化炭素の大気中残留時間に関するモデル間比較
● 大酸化イベント時の炭素同位体比変動記録についての理論的考察