SCI ハテナ?を探る サイエンスの旅

menu

原子過程をすべての現象の主役ととらえ、
宇宙の謎、生命の謎に迫る

14

原子過程 / 原子・分子の反応プロセス / 粒子同士の衝突・反応 / 宇宙空間での分子形成 / 核融合の制御 / オーロラはなぜ発光するのか / 先端計測装置の開発 / 医療への貢献 / 身のまわりの謎に目を向ける / ヒトの呼気で病気を発見

原子・分子の反応プロセスは
身近なところから宇宙まで、あふれている

私たちが研究に取り組む「原子過程」とは、原子や分子が反応するプロセスのことです。原子、分子、イオンといった粒子同士の衝突反応や、電子・光との相互作用によって、どういった変化が起こるかという過程を研究しています。 原子過程は、私たちの身近なところから、遠く宇宙空間に至るまで、様々なシーンで目にすることができます。蛍光灯の発光など身のまわりの現象から、核融合の制御、オゾン層破壊やオーロラ、宇宙空間での分子形成まで、非常に多岐にわたります。原子過程を、すべての現象の主役ととらえ、細かく観察することから研究が始まります。
一例として、地球の極地の空に輝くオーロラ発生の仕組みを原子過程の観点で考えてみましょう。オーロラは、太陽風に乗ってやってきた荷電粒子が地球の大気に含まれる酸素原子や窒素分子に衝突し、原子・分子のエネルギーが高くなることで発光しています。これも原子過程の一種であり、仕組みがわかれば実験室で再現することも可能です。

このように原子過程の視点を持つと、私たちのまわりの多くの現象に、原子・分子・イオンといった粒子の反応過程が深くかかわっていて、でもその詳細が未知であることが分かってきます。原子過程を、すべての現象の主役ととらえ、細かく観察することから新たな研究の扉が開きます。例えば私たちの研究室では、実験室に宇宙空間を再現し、未知なる部分の多い星間分子の進化過程を調べる研究を進めています。

「分からないこと」が分かると、
先端計測装置の開発にもつながる

私たちの研究室では原子過程の研究を生かし先端計測装置を開発することにも、力を入れています。医学への応用として、呼気分析装置、放射線被ばく線量評価装置などの開発に取り組んでいます。
呼気分析装置は、息を吹き付けるだけで病気が分かる装置。ヒトの吐く息に含まれる微量な化学物質を全く壊さずに検出できる質量分析装置で、呼気に含まれる物質を一度に検出できます。現在は、より短時間かつ高精度に測定ができるよう研究開発を続けています。原子過程の技術と知識は、身のまわりから宇宙まで様々な反応を取り扱うため、人々の生活や最先端の科学技術など様々なものに応用することができるのです。
原子分子物理学の面白さを伝えるため、高校での出張講義にも取り組んでおり、「宇宙空間を織りなす原子・分子・イオン」「原子・分子が切り開く現代物理学の最前線」といったテーマで、物理学科の学び方を伝えながら原子分子物理学への興味を喚起し、高校生が将来について考えるきっかけにしてもらいたいと考えています。
原子過程を学ぶと、自分の身のまわりの現象が実は「分からないこと」だらけだったことに気づかされます。原子・分子の反応を切り口に、まだ誰も気づいていない謎に、研究のメスを入れてみませんか? そして宇宙の謎や、生命の謎の解明に、迫ってみませんか?

古川 武准教授

東邦大学理学部物理学科准教授、原子過程科学教室。大阪大学大学院 理学研究科博士後期課程修了。日本学術振興会特別研究員、理化学研究所 基礎科学特別研究員、首都大学東京大学院 理工学研究科助教などを経て、2022年より現職。

研究内容

● 原子分子物理学、特にイオンを含む多原子分子の分光
● 原子制御技術を用いた原子核や素粒子基礎対称性

卒業研究例

● 高強度パルスレーザーを用いた星間分子負イオン生成
● ポアンカレ蛍光精密分光装置の高周波回路開発
● LabVIEWソフトウェアを用いたポアンカレ蛍光観測用集光光学系の制御