植物が持つ驚くべき環境適応能力 / 新しい遺伝子組換え植物の開発 / 分子レベルで生体メカニズムを解明 / 豊かな発想力が強力な武器 / 植物の未知なる可能性を引き出す / タンパク質とストレス適応能力の関係 / レアメタルを回収する植物 / 医療に貢献する遺伝子組換え植物 / 環境中の放射性ストロンチウムの除去 / 夢のようなアイデアが研究のヒント
植物は動物よりも多様な代謝経路をもっていて、砂漠や海の中などさまざまな環境で生育したり、人に対する薬や毒を作ったり、多彩な色や香りの花を咲かせたりします。本研究室では、そのような植物が持つさまざまな機能を分子レベルで解明し、人間の役に立つように応用する方法を研究しています。例えば「オオハネモ」という海藻。研究を進めていくうちに、この海藻が海水中のいろいろな元素を細胞内に高度に濃縮する機能があることがわかってきました。取り込まれた元素の中にはレアメタルやレアアース、放射性ストロンチウム、セシウムなども高い濃度で含まれていました。今はオオハネモがどのようにして海水中の元素を濃縮しているのか、そのメカニズムの解明に取り組んでいます。遺伝子組換えにより、その濃縮機能を他の植物に導入することで、環境中の貴重な元素を効率的に回収したり、放射性物質を生物的に除去する技術への応用も期待できるからです。また、水溶性クロロフィルタンパク質(WSCP)の研究も、本研究室の大きな研究テーマの一つです。これは東邦大学で発見された水溶性タンパク質で、植物の環境ストレスと何らかの関係があるということ以外は、いまだに謎だらけのタンパク質です。この研究は植物の環境ストレス適応メカニズムの総合的な解明にもつながります。その他、肝臓がんの腫瘍マーカー検査に使われる抗体分子を、植物を使って効率的に生産するといったような、遺伝子組換えを応用し人間の役に立つための研究を幅広く行っています。
植物はとても多様なので、研究テーマも本当に豊富。そのアイデアは他愛もない雑談から生まれることがよくあります。「食べると病原菌に対する腸管免疫がつくトマト」や「枯れにくい花」という夢のようなアイデアが、未来の研究のヒントになるのです。世界を驚かせる研究をするためには、独自の着眼点がとても重要になってきます。生物や化学に興味があることはある種の才能です。その才能を大切に、世界で誰も知らないことを知り、誰も考えなかったことを考え、それを人の役に立てるチャンスが、ここにあります。
東邦大学理学部生物学科卒業、東邦大学大学院理学研究科修士修了。日本医科大学生化学第一講座 助手、コーネル大学医学部小児科(血液学・腫瘍学講座)に留学、東邦大学理学部生物分子科学科 講師、准教授を経て、現職。博士(医学)。
● 水溶性クロロフィルタンパク質の構造と機能に関する研究
● 驚異的に海水中の希少金属元素を濃縮する海藻の元素濃縮機能に関する研究
● 抗腫瘍マーカーモノクローナル抗体の遺伝子組換え植物による大量発現系の構築
● 遺伝子多型分析実験の教材開発
● 抗PIVKAⅡ単鎖抗体の大腸菌及び植物における発現とその抗原への結合能の解析
● 肝腫瘍マーカーAFPに対するモノクローナル抗体のcDNAクローニング及びその単鎖抗体の作製と大腸菌による発現
● 緑藻オオハネモの顆粒結合型デンプン合成酵素のcDNAクローニング
● Site-directed mutagenesisによるマメグンバイナズナWSCPのクロロフィル選択性に関与するアミノ酸残基の解析
● 水溶性クロロフィルタンパク質の細胞内局在性に関与するシグナル配列及びカルボキシル末端保存配列の機能解析
● シロザ水溶性クロロフィルタンパク質の大腸菌における発現と光変換活性の回復
● イエギクのカロテノイド酸化開裂酵素4a(CmCCD4a)のゲノム遺伝子及びそのプロモーター領域のクローニング