寄生虫と宿主の関係性 / フィールドワークと解剖 / 新種発見 / 寄生虫の多様な生態 / ハリガネムシ / 宿主を操作 / 宿主の死体を利用 / 生物農薬として使用 / 生物資源としての可能性 / 生態系への影響を探る /
サナダムシやアニサキスなど、ヒトや家畜・魚に寄生したり食中毒を引き起こす寄生虫は多くの人に知られていますが、他生物に寄生する寄生虫を知っている人はあまりいないのではないでしょうか?実際、ヒトに関係する寄生虫以外は、研究対象としてもあまり注目されていません。どの寄生虫がどの生物にどれだけ寄生しているかはまだほとんどわかっていないので、「研究者にとってチャンスの多い領域」と言うことができるでしょう。
私の専門はカタツムリの寄生虫研究です。日本では、その存在はほとんどわかっていませんでしたが、私たちが調べたところ30種類ほどが見つかっており、そのうち7種類は新種と明らかになりました。研究室に所属する学生は、ヤスデや鳥など、各々の研究対象を採集・解剖して寄生虫を調べていますが、新種を発見した学生もいます。解剖して調べているうちに新種に当たる。それは、宝探しをしているようなわくわく感があります。
寄生虫にはユニークな生態を持ったものが多いのも、楽しい。主にカマキリに寄生するハリガネムシは、宿主の行動を操作して、川に飛び込ませます。宿主と共に川に落ちたハリガネムシは水中で交尾・産卵をし、宿主は魚の餌になります。ロイコクロリディウムはカタツムリの触角に寄生して目の形を芋虫のように擬態させ、鳥の捕食を促します。そして鳥の体内で産卵し、卵は鳥の糞と共に排出され、その糞をカタツムリが食べることで、またカタツムリに侵入します。
これらはほんの一例で、まだ知られていない不思議な生態を持った寄生虫が数多く存在するはず。今は幅広く寄生虫を探していますが、一つの寄生虫の生態を深く探るような研究も始めています。
アニサキスは宿主と共生することで種の繁栄を図っていくタイプですが、寄生虫の中には宿主をあえて殺し、その死体を利用・消費するものもいます。2017年に私が日本で初めて報告したナメクジカンセンチュウ属の線虫はこちらのタイプです。こうしたタイプの寄生虫は、生物農薬として利用できる可能性があります。実際にヨーロッパでは、この線虫の仲間が生物農薬としてナメクジ駆除に使われています。また、「地球上の生物の半数近くは寄生虫なのではないか」という説もあり、生物資源(=生化学物質を薬品に応用できるような、人間の生活に役に立つ可能性のある資源)として考えた時にも、多種多様な寄生虫は大きな可能性を秘めています。
寄生虫が生態系に与える影響の大きさも注目されます。ハリガネムシが川に落とした虫が魚の餌になるといった食物連鎖に与える影響や、寄生虫が外来種となって特定の宿主に悪影響をおよぼしてやがて生物相に変化を起こす可能性など。小さな寄生虫が地球環境に与える大きな影響も考えながら研究の幅を広げていきたい、そして学生たちにもそうした大きな視野を持ってもらいたいと、考えています。
東京大学農学部卒業後、東京大学大学院農学生命研究科修了。博士(農学)。日本学術振興会特別研究員、済州大学校博士研究員、公益財団法人目黒寄生虫館研究員を経て、2022年から現職。専門は寄生虫学、生態学。主にカタツムリなど、陸産貝類の寄生生物を研究している。
● 寄生虫の種多様性
● 寄生虫の生態
● その他、無脊椎動物の種多様性と生態
● 寄生虫の生活史の追跡調査
● 寄生虫の分類や分布調査
● 外来種となる寄生虫:移入のリスク評価と防除対策
● 外来種の陸産貝類の個体群動態