SCI ハテナ?を探る サイエンスの旅

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「きれいな水」って、どんな水?
化学分析で水環境を改善する。

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水質調査 / 化学分析 / 数値化 / 陸水 / 富栄養化 / 有害藻類ブルーム / 水域生態系 / 環境問題の改善 / 他分野専門家との共同研究 /

富栄養化の実態を化学分析。
環境改善議論の「根っこ」を支える

2つの湖があったとします。A湖は茶色くて、B湖は透き通っている。湖を見た多くの人は「B湖の方がきれい」と思いますが、湖を見ていない人にきれいさや汚れを伝えるにはどうしたらいいか。そこで必要になるのが「数値」です。水の成分を数値化し汚染状況を客観的に示してこそ、水質改善案を考えられるわけです。私が専門とする「陸水学」で担っているのは、正確さと精度の高い化学分析で数値を導き出し、環境改善議論の「根っこ」を作る役割です。
具体的には、湖沼、湿原、沿岸域など陸水で水質調査を行っています。窒素やリンなどの栄養塩類は湖沼や沿岸の生態系の維持に必須の成分なのですが、生活排水や農業排水などに含まれる栄養塩類が過剰に水域に供給されると富栄養化が進行します。するとシアノバクテリア(ラン藻)と呼ばれる植物プランクトンなど有害藻類が異常増殖(ブルーム)します。この藻類の一部は毒素を生成するので健康被害につながりますし、異常増殖した藻類の枯死によって悪臭が発生する、また嫌気環境を発達させ他の生物が棲めなくなり生物多様性が失われるという問題が生じます。
私が所属する陸水学会では、こうした問題を解決するために、化学や生物学、物理学、水文学など、さまざまな分野の専門家がデータを共有し、意見を出し合います。これが、楽しい。測定と実験を繰り返して原因を究明するという化学本来の面白さと、違った視点を持った研究者と共同で研究をする楽しさ、そして環境問題の改善という社会貢献ができること。陸水学はそんないろいろなよさが味わえる、魅力的な分野です。

植物プランクトンが異常増殖する
スイッチはどこか。
未解明の謎を解明していきたい

富栄養化で生じる有害藻類ブルームが水質汚染につながると前述しましたが、水域に栄養塩類が多いこと自体は悪いことではありません。栄養が豊かな水域は魚などの水棲生物やそれを捕食する鳥などには歓迎されるべきことで、豊かな生態系が育まれます。しかしながら、栄養塩類がある一線を越えると富栄養化により問題を生じる有害藻類ブルームが発生するのですが、一線が水域ごとに違うということもあり、その一線を越えるスイッチがどこにあるのかは、まだ解明されていません。今後もこうした富栄養化の事象を解明するための研究を続け、水域の富栄養化の抑制や、そこからつながると予測される温室効果ガスの削減に貢献したいと思っています。
実験室にこもって研究するイメージの強い化学分野ですが、陸水学は外に出る機会の多い学問です。大学の近くにある谷津干潟に1年間通い続け、「水辺に生えるヨシはどれだけ窒素とリンを取り除けるか」というテーマでよい論文に仕上げた学生もいます。長期休暇には釧路湿原や尾瀬ヶ原にも足を伸ばして水質検査を行います。そうしたフィールドワークの際や陸水学会のコミュニティでできるだけ多くの人とコミュニケーションを取るように、学生たちを指導しています。いろいろな人と接して視野を広げることは研究にとってもプラスになりますし、人間的成長にもつながると考えるからです。
こうした「外に出る化学」が理学部化学科に入っている大学は少ないですね。東邦大学にはさまざまなジャンルの研究室があります。幅広い分野が学べるし、研究テーマに違和感を持ったら専門を変更することも可能。この自由度の高さは、大きな魅力だと思います。


千賀 有希子准教授

島根大学理学部化学科卒業、島根大学理学研究科修士課程修了。鳥取大学大学院連合農学研究科博士後期課程修了 博士(農学)。国立環境研究所 研究員、日本学術振興会(JSPS)特別研究員、立正大学地球環境科学部 助教、東邦大学理学部化学科地球化学教室 講師などを経て、同准教授。

研究内容

● 水域生態系における栄養塩および有機物の動態解明
● 水質浄化の技術の開発とその評価