SCI ハテナ?を探る サイエンスの旅

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「老化」に伴う変化を探り、
健康に老いる方法を模索する。

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老化 / 免疫 / マクロファージ / 医学 / 好酸球 / 炎症 / 自然免疫 / 死細胞 /

マクロファージの働きを調べる
老化に伴う変化を探究

人間の体は、約60兆個の細胞から作られています。そのうち、約3000億個の細胞が役割を終えたり、寿命を迎えて、毎日死んでいます。死んだ細胞は、白血球の一種であるマクロファージなどに食べられて除去され、体内に蓄積されないようになっています。しかし、この仕組みがうまく機能しないと、死んだ細胞が体内に残ります。その残った死細胞が細胞内容物を放出するようになり、結果として体内に炎症を引き起こすようになります。この炎症反応は、さまざまな病気の原因になることも分かってきています。 以前、共同研究で普通のマウスより長生きするマウスの解析に携わったことがあります。色々と調べていくと、その長寿マウスが持つマクロファージは、普通のマウスよりもサイズが大きく、しかも死細胞を食べる能力(貪食能)も高いことが分かりました。この結果から「貪食能が高いマクロファージを持っているマウスが長生きするということから、年を取るとマクロファージの貪食能が衰え、死細胞が残り、炎症が引き起こされることで、さまざまな臓器が炎症を起こしやすくなる。その結果、年を取ると、病気になりやすくなるのではないか?」という仮説を立てました。その仮説を裏付けるためにさまざまな実験を続け、年を取ったマウスのマクロファージは、若いマウスに比べて死細胞を食べる能力が低くなっていること、老化したマウスでは、死細胞が体内に残存して、炎症を起こしやすい状態になっていることが明らかになりました。



Try and Errorの楽しさと
社会の役に立つ充実感を味わえる

というとすんなり研究が進んだように感じるかもしれませんが、とんでもない。仮説を立てても、証明されなければそれは絵に描いた餅。絵に描いた餅を本当の餅にするために実験を繰り返し、思った通りの結果になれば嬉しいし、違った結果が出るとガッカリする。そして、なんで違ったのかを考えて、また新たな実験をする。この繰り返しで、やっと成果が上がります。大変です。でも、すごく楽しいし、充実感もあります。
そして、1つのことが明らかになると、次のテーマが見つかります。今は、年を取ると、なぜマクロファージの貪食能が低下するのか?その低下を阻止することが出来ないのか?について調べています。マクロファージが年を取っても貪食能を維持できれば、死細胞が起因となるさまざまな病気の脅威から免れることができるのではないかと考えており、「健康に老いる」というテーマを少しでも実現したいと思っています。また最近、炎症が終息するときに見られる細胞群に学生が着目し、それが好酸球という白血球の1つであることも分かり、自分が携わった研究で少しでも社会の役に立てれば、とても喜ばしいことと思います。
私は薬学部の出身なのですが、免疫を卒業研究のテーマにしたことから、実験や研究の面白さに目覚め、現在に至っています。私のような医学や薬学に近い分野も、化学、生物、その他さまざまな研究分野もあることが、東邦大学理学部の魅力の一つだと思います。高校生のうちに専門分野を見つけようと焦らなくても大丈夫です。入学して幅広く学ぶ中で、興味のある分野を見つけられるはずですし、見つけてほしいと願っています。

永田 喜三郎教授

東京理科大学薬学部薬学科卒業、東京大学大学院薬学研究科博士課程修了。東京都臨床医学総合研究所 免疫研究部門 研究員を経て、2003年12月東邦大学 理学部 生物分子科学科 講師 着任。2008年4月より准教授、2017年4月より教授。

研究内容

● 炎症応答終息における好酸球の役割
● 老化に伴うマクロファージの貪食応答の低下の仕組み
● 死細胞が誘導する炎症応答